2018年7月9日月曜日

【中野さんの芸能コラム】Performing Arts Review (34) 仏映画「シェルブールの雨傘」 半世紀後の邂逅

Performing Arts Review (34)

仏映画「シェルブールの雨傘」 半世紀後の邂逅

平成30年7月10日 中 野 希 也


scene 1

1963年のフランスのミュージカル、小さな港町シェルブールに住む若い恋人たちの物語。主役のカトリーヌ・ドヌーブは当時20歳、現在はフランス映画きっての大スターとして国際的な活躍をしている。

一般のミュージカルでは俳優が演じ歌うが、この映画では俳優は演技するだけで会話の部分はすべてプロが歌う。つまり俳優と歌手の歌声とを合わせて一人一人のキャラクターをつくりあげるというミュージカル映画の定石を破った画期的な作品で翌年のカンヌ映画祭グランプリを得た。

1960年代と言うと西洋のポップスは、洋画と共に入ってきた時代だった。ノーベル賞作家John Steinbeckの「East of Eden」がJames Dean主役で1955年に米国で映画化されたとき、主題歌「エデンの東のテーマ」は一年以上ヒットパレードの首位を占めた。続いて、「禁じられた遊び」(仏)「太陽がいっぱい」(仏、アラン・ドロン主演)、「男と女」(仏)、「白い恋人たち」(仏)と、枚挙にいとまがない。

私が今なお鮮烈に覚えているのは、はかないストーリーよりも、息をのむドヌーブの美しさよりも、哀切きわまりないメロディーのためである。

あらすじを字幕で追う。
主役は傘屋の娘、16歳のジュヌビエーブと恋人のオート・ショップではたらく20歳のギイ。
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪主旋律が流れる
1957年11月 
ピンク、青、白、うす緑の傘が雨に濡れた歩道を彩る。
ジュヌビエーブ「モナムール 私の恋人」
ギイ「ジュヌビエーブ ぼくのジュヌビエーブ」
ジ「ギイ 好きよ ガソリン臭いわ」
ギ「これはぼくの香水だよ」
ジ「愛しているわ」

ギ「ママに話した?」
ジ「まだよ」
ギ「なぜだ?臆病だな」
ジ「怒らないで ママの返事はわかっているのよ」
ギ「何だ?」
ジ「気は確かなの?その齢で結婚なんて」


scene 2

ギ「けさ召集令状が来た 2年間戦線に行かないと だから結婚の話はその後にしょう」

ガレージの前のカフェ
♪♪ 
ジ「私 あなたなしでは生きていけないわ 行かないで 私 死んでしまうわ
  かくまってあげるわ 私が守ってあげるわ だから あなた 私から離れないで
ギ「そんなことできないよ」
ジ「私 離れないわ」
ギ「ぼくの恋人! ぼくはキミのことだけ思っているよ」
ジ「2年・・・」
ギ「泣かないでおくれ 後生だ」
♪♪

駅 ギイの出発
♪♪
ジ「あなた 待っているわ 一生」
ギ「君だけを思ってるよ」
ジ「ここにいて 行かないで お願いだわ」
ギ「ぼくは発っていく 見ていないでくれ」
ジ「そんなことできないわ できないわ」
ギ「ぼくの恋人」
ジ「愛しているわ」
♪♪

1958年3月
♪♪

scene 3

ジ「あの人がいないということは なぜこうも重荷なのかしら
  ギイはなぜ私から離れて行ったのだろう? なぜ手紙をくれないの?
  死ぬほど思ってる私なのに なぜ 私は死ななかったのかしら?
♪♪

1963年12月 ギイが経営するシェルブールのガソリンスタンド
一台の車がきた。ギイが近づくと窓が開く。運転していた夫人はジュヌビエーブだった。
♪♪♪♪♪♪♪♪
ジ「寒いわ」
ギ「事務所にきたまえ」
ジ「ここは暖かいわ 結婚以来 シェルブールに戻ったのは初めてよ
  義母の家へ行ってパリに帰るところよ 回り道をしたの 会えるとは思わなかったわ
  こんな偶然でなければ」
・・・・・
ジ「あなた 元気?」
ギ「とても元気だよ」

scene 4

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
                 FIN

本主題歌の思い出を書いてみたい。
1989年 アムステルダム
家族でバケーションの途次、ホテルのBGMで流れていた。日本でも米国でも、ついぞなかったこと。そうかオランダでもこのフランス映画が公開されていた。両国は近い。

1995年 ニューヨーク
ピアノバーでくつろいだときに、ピアニストが客席に向かってリクエスト?と聞くので、私はこの曲を頼もうとした。
Music from the French Movie “Umbrellas of Cherbourg”と思ったものもCherbourgを発音できる自信はない。一計を案じラ、ラ、ラ、ラ ラララララとイントロを口ずさみ、「このフランスの映画知ってる?」と訊くとなんと「知ってる、知ってる、大好きな曲なんだ 任しとけ!」と見事に弾き語った。映画の中では歌詞は一切なく会話しかないが、メロディにあわせて後から歌詞が付けられ広く流布したのだろう。
「これはびっくり!曲の名前は?」「古い曲だよ I Will Wait For You」と。

2018年5月 クリーブランド
妻の知人宅に呼ばれたとき、私は手持ち無沙汰で室内をみわたし古い電気蓄音機を見つけた。「これはアンティークの飾りもの?」と尋ねると「いえ、ちゃんと聴けますよ 横の箱に 当時のLPが何枚かありますからどうぞ」私は日本では洋盤をクラシック・ポピュラーあわせて百枚ほど持っていたので懐かしく、一枚ずつ念入りに見ると「Academy Award 1966 Song Nominees」があり数曲の名前がある。
  「ララのテーマ」ーパステルナークのノーベル賞作品「ドクトル・ジバゴ」主題歌
  「The shadow of your smile」ーエリザベス・テーラー主演「いそしぎ」テーマ
  「何かいいことないか子猫ちゃん」等に混じって 
  「I will wait for you」が。
なんとフランスのミュージカルが第38回アカデミー賞の「作曲賞」「編曲賞」「歌曲賞」にノミネートされていたのだ!

私の声は震えていたかも知れない「こ、このレコードを掛けてくれますか?」「OK」
まぎれもなく、あのメロディー♪♪♪♪♪♪♪♪なのだ。
半世紀前に日本の映画館で観たこと、そして・・・と話さずにはおられなかった。そして
「すみませんが、もう一度LPをかけてくれませんか」「もう一回」
知人宅を辞すとき「そんなにお好きでしたら差し上げますよ、どうぞお持ち帰りください」

いま私の部屋では、1966年にプレスされた30cmのディスクが33 1/3 rpmで回っている。




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